ヒジキに関する過去の記事では、コンブに比較にならない程ヨード含有量が低く、また伝統的日本の調理方法にのっとれば、ヨードの過剰摂取にほど遠いことを書きました。今回は英国やカナダ政府から指摘されている、「無機ヒ素」の含有についてです。 このことは日本でも、しばしば議論になるようです。イギリス政府はわざわざ日本語で、注意喚起まで行っています。この件に関して厚生労働省は、「平均摂取量は1日当たり乾燥ヒジキ換算で0.9グラム。1日当たり乾燥ヒジキで4.7gまでの量であれば問題なし。」としています。 ヒジキ料理は一般的には、ヒジキ単体の煮物であれば、通常は少量です。なぜなら日本人は、まっ黒な食品は、多量に食しません。京料理に代表される「色で料理を楽しむ」という文化は、ある意味食の安全性につながると思います。 ただし東京都福祉保健局による無機ヒ素の平均値の調査では、厚生労働省の調査より水戻し後の無機ヒ素の最大含有量が1.4倍高かったため、体重50kgの人で3.4g、体重75kgの人の場合は、5gが上限といったところでしょうか・・・。 私が東京都のヒ素含有量最大値を重視しなかったのは、このような天然素材は、平均値でみるべきたという考えによります。もし最大値を優先するのであれば、今後たまたま高い無機ヒ素含有量のヒジキが見つかった場合は、また修正を余議されなくなるからです。そのようなことは、とてもつまらないことだと思います。 さて実際の日常生活では、どれだけの量のヒジキを食するかということについてです。ヒジキ料理は一般的には、ヒジキ単体の煮物であれば、通常は少量です。なぜなら日本人は、まっ黒な食品は、多量に食しません。京料理に代表される「色で料理を楽しむ」という文化は、ある意味食の安全性につながると思います。 ヒジキは単体よりも、大豆やりょくとうと組み合されたり、レバーと組み合されたりします。それにニンジンなども合わされば、見栄えも美しい料理に仕上がります。そうやってでき上がった小鉢の中のヒジキは、乾燥体換算ではたして1日あたり4.7グラムもあるかということです。(ここでは便宜上、厚生労働省の数値で考察していきます。) ヒジキは水を含めば約7倍、そうすれば30グラム程度ということになります。ヒジキ料理を作られた方はお分かりだと思いますが、ヒジキ単体で30グラムとは結構な量です。それに大豆やニンジン等が見た目にも色よく加えられれば、それは小鉢にいっぱいになってしまう場合もあるのではないでしょうか。 しかしこの厚生労働省の「上限摂取量4.7g/週」に異議を唱えたのが、あの日経ヘルスさんの2004年8月2日付けの記事です。 「ヒジキを食べる場合、(※毎日の)食卓に出る量はこんなものではない。市販の家庭料理書では、最もポピュラーなヒジキの煮物1人前には、乾燥ヒジキを5〜15g用いるとしている。水に戻した状態では30〜90g程度になる。厚労省が示す0.9gの30〜100倍もの分量になる。」 ※0.9gと比較していることから、わかりやすいように、「毎日の」というフレーズを付け加えました。 私は最初この記事をみて、「ほんとうに日経さんの記事?」と、失礼ながら驚いてしまいました。この日経さんの記事のは大きな波紋をよび、他のメディアにも大きく影響を与えてきました。この「乾燥ヒジキ5〜15g 水に戻した状態で30〜90g」という数値が、独り歩きをし始めたのです。 たとえば2004年8月6日付けの、All Aboutさんの記事です。ヒジキに対しては全体的には、好意的な記述でした。しかし「食卓で出される量から考えると、水に戻した状態では30〜90g程度になるので、大丈夫なのかと不安もありますよね。」というように、日経さんの数値がそのまま転用されていたのです。 お店で販売されている乾燥ヒジキは、20〜30グラム入りが主流です。日本で販売されているこのての商品はだいたいにおいて、4〜5人程度の家族が想定されていると考えるのが妥当ででしょう。もし15グラムの食するのであれば、50〜100グラム入りが主流になるべきです。したがって1人前あたり乾燥ヒジキ15グラムというのは、きわめて多い使用量です。 私は実際に15グラムを使用して、調味料と水以外は加えずに、ヒジキの煮物を作ってみました。水に戻せば、お茶碗1杯になります。そして調理を終えた時点で、体積で約10%程度減量するぐらいで、やはりお茶碗1杯程度には変わりありません。 我ながらおいしい味付け! しかし・・・。 私は海藻類が、大好きです。しかしこんな量を毎日食べるとなれば、拷問に近いことです。「私はヒジキを食べるために生を受けたのではない!」と言いたくなるような、たいへんな量です。毎日飽きが来ない程度に食するなら、やはり乾燥体換算で2〜3グラム程度ではないでしょうか。もし5グラムも食するなら、翌日はヒジキは食べようとは思いません。 そして私が大量に食せない理由は、意外とヒジキは濃厚な味わいであるということと、やはり真っ黒なことです。それは先ほどの、料理の色彩による文化の影響が強いと思います。言いかえれば、海洋資源を食用に多く利用してきた日本人であっても、「イカスミスパゲティ」のような真っ黒な料理は、伝統的和食にはまず存在しません。 またヒジキ料理は、日持ちする料理です。一度にたくさん作って、冷蔵庫に冷やしながら何日かをかけて、食する家庭も少なくありません。そうなれば日経さんの低めの数値である、1食あたり5グラムの量さえ、毎日食するには多めの量なのではと思います。 ただ、日本ひじき協議会さんのホームページでは、ヒジキを多量に使用したヒジキ料理が掲載されています。しかしこれらの中でヒジキを多量に使った料理のほどんどは、創作料理に近いもので、「小鉢」というレベルを通り越しています。毎日食するものではないでしょう。若干調理方法に疑問を感じるレシピもありますが、日頃からヒジキを召し上がらない方には、たいへん素晴らしい料理だと思います。 以上のことから、「1人前5〜15グラム」を主張・支持されている方は、失礼ながら実際にひじきを調理をされる等の検証をされたのかと、少々疑問に思えてくるのです。実際に調理をされていれば、これだけの量を毎日食せるものでないと、すぐに気付くと思います。 厚生労働省の上限値をまもり、伝統的な日本料理の範囲で食するには、まず問題のないことだと思います。ただしヒジキに含まれる無機ヒ素の摂取が胎児の奇形につながるとの見解があるために、妊婦さんは主治医の先生の指導に従うべきでしょう。そうはいっても、ヒジキによる妊婦さんの健康被害事例は、聞いたことがありません。 さて、今までは、ヒジキに対する抗弁に徹してきましたが、次はヒジキ料理の素晴らしさについてです。 過去の記事にも書きましたが、ヨードは豆類と組み合されることにより、毒性が低くなることが知られています。また反対に、豆類がもつ毒性は、ヨードにより低くなります。この組み合わせによる毒消しは、どうやら無機ヒ素に対しても行われているとの、可能性があります。 ヒジキ料理に加えられる「大豆」や「りょくとう」などには、ビタミンB群の「葉酸」が豊富に含まれます。レバーもやはり、肉類の食材としては、驚異的に葉酸を含みます。じつはこの葉酸が、無機ヒ素の毒性を弱める働きがあることが、近年わかってきています。 過去の記事にも書きましたが、妊娠可能な年齢の少なからずの日本女性は、慢性的に葉酸不足です。既述のように、「妊婦さんはヒジキを食すべきではない。」との医学的見地があります。しかし別の側面からいえば、葉酸不足の場合はヒジキを食しなくとも、胎児の奇形を誘発します。それならば葉酸をたっぷり含んだヒジキ料理であれば、むしろ妊婦さんにはプラスと評価される可能性があるのではと、アルガアイは考えるのです。 伝統的な日本料理の本髄を評価することなく、ヒジキの一面だけをみて偏った評価をする外国の方々にも、ヒジキ正しく評価して欲しいと思います。弊社はヒジキそのものを扱ってはいませんが、ヒジキさんもアルガアイの大切なお友達なのです。もちろん、昆布さんもワカメさんもモズクさんももです。 次の記事では私が経験した、ヒジキの健康効果について、書きたいと思います。