この関節用サプリメントの問題を解き明かすために、まずは先ほどのセオ博士のことからご説明させていただきたいと思います。セオ博士はそれまでにヨーロッパ各国やシンガポールで行われてきたサプリメントによる臨床試験を研究、そしてご自身も患者さんへの治療を行い、それをもとに2冊の本をだしました。全米でミリオンセラーとなったセオ博士ほか2名の共著書『こうすればひざ痛は治せる』(元版は英語名で“The Arthritis Cure”)と、『続・こうすればひざ痛は治せる!』は日本語にも翻訳されて、セオ博士の名前は日本でも一躍有名になりました。セオ博士によれば、ある程度までの症状であれば、塩酸グルコサミン(グルコサミン塩酸塩)とコンドロイチン硫酸という栄養素を摂取することにより、元通りとまではいえなくとも、ほぼ正常な状態にまで回復させることが可能だと主張しています。セオ博士は適度な運動や日々の栄養摂取などに気をつけるとともに、最低でも塩酸グルコサミン1000mg、コンドロイチン硫酸を800mg摂取することが大事と主張しました。そして博士はさらに、体重によって以下のような推奨摂取量を設定いたしました。 @体重が55kg以下の方 塩酸グルコサミン 1000mg/日 コンドロイチン硫酸 800mg/日
A体重が55kg〜90kgの方 塩酸グルコサミン 1500mg/日 コンドロイチン硫酸 1200mg/日 B体重が90以上の方 塩酸グルコサミン 2000mg/日 コンドロイチン硫酸 1600mg/日 関節用サプリメントでよく『5対4』と言われるのは、この2つの成分の比率からによるものです。セオ博士はお医者さんとして治療での経験をふまえ、上記のように推奨摂取量の設定を行ったわけです。またセオ博士はコンドロイチン硫酸のみの摂取ではある程度の効果は期待できるが、塩酸グルコサミンのみの摂取による効果は薄いと強く注意を促しています。効果が薄いというのは、グルコサミン単体では関節症の進行を遅らせる程度でしかないという意味です。セオ博士はご自身の著書のなかで、グルコサミンは外観上軟骨を回復させると表現しています。外観上とは、レントゲンに映し出される範囲です。日本でもよくこのあたりの情報だけをもってグルコサミン単体だけで回復するとの情報があふれていますが、あくまでも外観上だけのお話です。 アメリカのそれまでのFDA(連邦医薬局)の医師に対する指導は、NSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛剤)の投与とリハビリでした。NSAIDsの副作用の一つとして関節症を悪化させる作用があり、またそれ以上の甚大な副作用さえ引き起こす危険性があります。そしてその副作用とは、決して生易しいものではありません。アメリカの医薬専門誌である“New England Journal of Medicine”は1999年6月17日付け記事で、「1997年の1年間のNSAIDsによる変形性関節症とリウマチ患者の死者は16500人、胃腸障害の重症患者は103000人以上に達する。」と報じました。しかしグルコサミンには消炎鎮痛効果がありかなり安全です。グルコサミンとNSAIDsを併用することで、NSAIDsの量を減らすこと、またはNSAIDsを必要としなくなることも可能です。その意味でグルコサミンの功績は大きかったわけです。 メイヨー・クリニック著の『関節炎』によりますと、1999年のベルギーの研究グループが「グルコサミンは関節炎の進行を遅くする。」と発表しました。これは言い方をかえますと、グルコサミン単体の摂取では、やがては軟骨は磨り減ってしまうという意味です。セオドサキス博士が主張した目標は関節症の進行を遅らせることではありません。もう一歩進めて関節症を治してしまおうということです。ですからセオ博士は医師としての良心にのっとりノウハウを公開し、世界中の関節症の患者さんに強く注意を促しているのです。実際私は膝内症なのですが、レントゲンと症状が常に一致しないこということは実感済みです。 ここでおことわりをさせていただきますが、コンドロイチン硫酸のみを豊富に含んだ関節用サプリは、日本ではいくつか発売されております。ただしそのような良心的な業者のPRは控えめですので、少々目立ちにくいかもしれません。 そしてセオ博士はさらに研究をすすめ、2004年9月に3冊目の本『改訂版』(The Arthritis Cure Revised Edition)をアメリカで出版されました。しかしその時は、それまで日本語版を出版していた同朋社さんは解散されていて、残念ながら日本語版は発刊されておりません。その著書には、体重に関係なく以下のように推奨摂取量が設定されておりました。
塩酸グルコサミン 1500mg/日 コンドロイチン硫酸 800mg/日 簡単ながら、以上がセオ博士の本当の主張でした。 ■これがトリックです!■ 【いかがわしいパターン@】 まずセオ博士の名前に言及しながらコンドロイチン硫酸配合量が大幅に少ないものは、疑いの対象となるでしょう。一般的なパターンはセオ博士のことに言及しながら塩酸グルコサミンとコンドロイチン硫酸についてのお話もするのですが、いつの間にかコンドロイチン硫酸には言及しなくなり、塩酸グルコサミンのみに焦点をあてたお話に移行していきます。実に不自然なお話の進行なので、すぐにおわかりになると思います。またそればかりか場合によりましては二つの素材の組合せにはほとんど言及せずに、「グルコサミン単体摂取が効果的だとセオ博士が主張している。」などと語ったりします。セオ博士にとりましても、よい迷惑かもしれません。当たり前のことですが、原料によって価格の高低があります。ここでは絶対的な原価は明らかにしませんが、塩酸グルコサミンに対するコンドロイチン硫酸の価格の比率は、概ね10倍程度です。仮に塩酸グルコサミンがグラムあたり10円とすれば、コンドロイチン硫酸は100円になるわけです。以下のようなサプリメントがあると仮定します。原価ベースでどのような変化が起こるかをご覧下さい。 @塩酸グルコサミン:1000mg コンドロイチン硫酸:800mg A塩酸グルコサミン: 2000mg コンドロイチン硫酸:100mg サプリメントのイメージとしては、Aの方がよりたくさんの有効成分が入っていて、より効果がありそうに感じますが、先ほどの原料の原価を当てはめると2つの原料の原価の合計は@が90円、Aが30円となります。従いましてセオ博士の名前に言及しながら、Aのような配合量のサプリメントを販売しているのでしたら、疑いの対象と言えるでしょう。 【いかがわしいパターンA】 次に冒頭のように私がだまされたパターンをご紹介したいと思います。サプリメントのラベルや外箱には、1日あたりの成分表と錠剤などの重量が表示されております。先ずは成分表にある重量と1日あたりの錠剤等の重量を比較してみて下さい。以下はあるメーカーの配合量です。業者を特定しにくいように、数値を若干変えております。またこのような業者はたくさん見かけますので、数値はいろいろ変わります。 <1日(10粒)あたりの主要成分> 塩酸グルコサミン : 1500mg コンドロイチン硫酸: 1000mg (内容量 340mgx 100粒) おのおのの成分は何らかの原材料の中に存在します。日本国内に流通しているコンドロイチン硫酸含有物の多くは、豚や鮫の軟骨から抽出されたもので、コンドロイチン硫酸を主成分とするムコ多糖体と軟骨に含まれるコラーゲンの分解物で構成された『コンドロムコタンパク』と称されています。場合によりましては流動性を高めるデキストリンが加えられ、コンドロイチン硫酸の含有量は20%か40%がほとんどです。一方塩酸グルコサミンはおおよそ100%に近いものです。錠剤などにするためには、それらの主原料の他に賦形剤(製造の際の流動性を高めたり固めたりする充填剤)が加えられます。主原料の特性によりまれに充填剤が0%であることもあるようですが、コンドロムコタンパクのような比重が軽くてふわふわした原料が主体となると最低でも賦形剤の割合は10%〜20%です。これらの比率を2つの原料に当てはめますと、塩酸グルコサミン含有物が1500mg、コンドロイチン硫酸含有物が少なくとも2500mgとなります。成分表に記載されている成分の合計は、当然ながら錠剤などの重量より小さくなるべきはずです。ところがこの例では、主原料の合計だけで4000mgという不思議な数値になってしまいます。賦形剤の量を考慮すれば、ますますこのマイナスの誤差は大きくなります。なぜこのような逆転現象が起こったのでしょうか・・・。答は簡単でした。このメーカーはコンドロイチン硫酸の正味量を記載すべきところを、コンドロイチン硫酸含有物の量を記載しているのです。私が確認したところコンドロイチン硫酸の正味量は200mgだけで、5倍もの量を偽っていたのです。もちろん高濃度の原料が開発されている可能性もあるでしょうが、疑問を感じたら先ずは疑っていただきたいのです。そのサプリメントのメーカーに電話をかけて「何%の原料を使用しているか?」などと質問してみるのもよろしいかと思います。そこでウソが発覚すればその業者は魔法使いではなく、紛れもなくペテン師なのです。 これはご参考までですが、塩酸グルコサミンとコンドロムコタンパクを使用してセオドサキス博士の推奨のサプリを錠剤で仕上げたとしますと、とんでもないものが出来上がるでしょう。比重の軽いものが主原料となりますから、比較的大きな錠剤を1日に10〜20粒は服用しなくてはならず、おまけに固めるためにたっぷりと配合するセルロースなどで、胃はかなり疲れ果てるでしょう。お年寄りにはまず無理です。ちなみに冒頭で1つだけセオ博士の推奨に合致するサプリの存在をお知らせいたしましたが、それは粉末タイプのものです。粉末であれば賦形剤はほとんど必要としません。おそらくはお年寄りにとりましても、許容範囲でないかと思われます。 【いかがわしいパターンB】 またこのような巧妙なキャッチフレーズをまとった商品もございます。『5:4』といったセオ博士が主張する配合比率を掲げながら、塩酸グルコサミン正味量とコンドロイチン硫酸含有物量をその比率で配合しているのです。セオ博士が主張しているのは、あくまでも正味量での比率です。 【いかがわしいパターンC】 これは上記のパターンAの変形型です。パッケージの記載に偽装はありません。販売者が消費者のみなさんに故意に誤解を与える(だます)のです。製品説明の途上でコンドロイチン含有物やコンドロムコタンパクという言葉を、いつのまにかコンドロイチン硫酸という言葉にすりかえてしまいます。インターネット上のホームページの内容を気をつけて見られたり、テレビの製品紹介の際のアナウンサーの言葉を注意深く聞いてくだされば、すぐにおわかりになられると思います。 ■この法の狭間を理解すればすべてが見えます!■ 以上のように調べてまいりますと、冒頭で申し上げたように日本にはほとんどセオ博士の主張に合致するサプリメントが存在しないことをご理解いただけたのではと思います。このようにセオ博士が論じているサプリメントとは、日本ではむしろサプリメントではなく、医薬品としてあつかわれています。この医薬品では塩酸グルコサミンが医薬成分でないために、塩酸グルコサミンの含有については控えめに記述されています。じつはこのあたりがいわば『法の狭間』とも言うべき死角であり、消費者の皆さんにはとてもわかりにくい部分なのです。 医薬品に使用されているコンドロイチン硫酸はナトリウムと結合した『コンドロイチン硫酸ナトリウム』というもので、コンドロイチン硫酸の純度が90%程度と高いものです。このコンドロイチン硫酸ナトリウムはアメリカでは制約を受けることなくサプリメントに使用できますが、日本では事情が違ってきています。厚生労働省での医薬品を担当する部署と、食品を担当する部署は別々です。医薬品を担当する部署からは、「コンドロイチン硫酸ナトリウムは安全性が高く、薬効を標榜しない限り食品として扱ってよい。(薬効を標榜する場合は、医薬成分として取り扱われる。)」という見解が既に出ております。(実際私もいろいろな情報を収集してみましたが、コンドロイチン硫酸ナトリウムによる副作用の報告はほとんどなく、逆に塩酸グルコサミンのほうが便秘になったり、薬の飲み合わせなどにおいて問題が生じる場合が多いようです。)しかし一方、食品を担当する部署は食品衛生法で、コンドロイチン硫酸ナトリウムの使途を添加物という形で、歴史的に長らく規制してきており、現在もそのままです。許可されている使途はきわめて狭く、マヨネーズなどの保湿剤のみで、配合する量さえも厳しく規制されています。この法令が定められた時点では、この成分の充分な安全性が確かめられていなかったのではと思われます。じつはこのタイムラグが私が申し上げる『法の狭間』です。自治体の担当の方さえも、ご存知でない場合が多いのです。ですから消費者である皆さんが知る由もありません。そしてその『法の狭間』に位置する市場では、医薬成分でない塩酸グルコサミンを主体とするサプリメント業者と、医薬成分であるコンドロイチン硫酸ナトリウムを主体とする製薬会社による、激しい争奪戦が静かに行われているという状況です。 補足説明ですが、コンドロムコタンパクに含まれるコンドロイチン硫酸も実際にはコンドロイチン硫酸ナトリウムとして含有されているそうです。しかし主体がタンパクであるとみた場合、コンドロイチン硫酸ナトリウムととらえなくてもよいわけで、食品(サプリメント)に使用できます。そういうわけでサプリメントに含有される原料には、コンドロイチン硫酸高含有の原料が流通できないのが現状となっております。消費者のかたからすれば少々いびつに映る状況でしょうし、実際海外の業者も理解ができずに日本の検疫所で食品衛生法違反としてのトラブルが続出しているようです。「そのような状況なのになぜ厚生労働省の薬事から安全といわれているコンドロイチン硫酸が未だに食品衛生法で規制されているのか?(タイムラグがそんなに長いのか?)」とのご質問をみなさまから頂戴するかもしれません。しかしそれはここで憶測で論じてもしかたがありません。ですので私は気長に信じて見守るだけです。 ■MSMとは?■ 最近MSM(メチル・スルフォニル・メタン)という硫黄化合物を原料とする関節用サプリメントが、店頭でも多くなってきました。消費者のみなさんにおかれましては、ますます選択に悩まれると思います。実はこのMSMにつきましても、セオ博士は言及しています。ご存知のように硫黄は人体を形成する大事なミネラルです。動物性たんぱく質をあまり摂取しない場合は、硫黄摂取不足が懸念されるようです。セオ博士は、摂取動物性たんぱく質の摂取量が少ない方は、塩酸グルコサミンやコンドロイチン硫酸をしっかり摂取した上で、MSMも摂取することを、改訂版で薦めています。 ■アメリカのいかがわしい関節用サプリメントの状況■ セオ博士によりますと、やはりアメリカでもいかがわしいサプリメントが店頭に数多く並んでいるそうです。なかにはセオ博士の本のデザインを真似たパッケージで、中身は塩酸グルコサミンやMSNなどの安価な原料を主体として、コンドロイチン硫酸は微量だけ含有させた商品もあるそうです。デザインを真似る自体も少々問題のような気がしますが、真似るのであればせめて中身も真似ないと、消費者の方に大きな誤解を与える(だます)ことは明白です。セオ博士はご自身のホームヘページ上で、くれぐれもだまされないようにと情報を発信し続けています。 ■おことわりとお願い■ 以上のように残念ながら、日本でもいかがわしい関節用サプリメントが数多く存在します。ただしこれはあくまでも、虚偽の記載を行ったり意図的に誤解を生じさせたりするなどして消費者をだましている、またはセオ博士の名前に言及しながらもセオ博士の主張にそぐわない配合量のサプリメントを販売している、そのような製品や業者のみについて論じており、関節用サプリメント全体を否定するものではございません。消費者に誤認させないように販売されているグルコサミン含有サプリやグルコサミン&コンドロイチン含有サプリは、有効成分の含有量の多い少ないは関係なく、それはそれで問題のないことだと思います。含有量に関する情報が適切であれば、消費者の方がコンドロイチン硫酸を豊富に含有する他のサプリや医薬品と組み合わせて使用することも可能です。またセオ博士の主張以外に有効な手段もありうるわけですので。その点だけはご了解いただきたく存じます。 最後になりますが、ひざ痛の場合はお医者さまとのご相談の上でサプリメントを摂取されることを、つよくみなさまにお勧めいたします。またみなさまの大事なおじいちゃんおばあちゃんの財布の中身が軽くならないよう、また何よりもおじいちゃんおばあちゃんの軟骨が磨り減らないよう、そっと見守ってあげていただければと思います。